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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)3291号 判決

原告

草野守

ほか一名

被告

川崎金次郎

ほか三名

主文

被告川崎金次郎は、原告両名に対し、各金一二八万三、七二三円宛、およびうち金各一一三万三、七二三円宛に対する昭和四五年七月二〇日から、うち金各一五万円宛に対する昭和四七年一一月一〇日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告川崎金次郎に対するその余の請求および原告らの被告川崎金次郎を除くその余の被告らに対する請求を、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告川崎金次郎との間で生じた分はこれを五分し、その一を同被告の負担とし、その余を原告らの負担とし、原告らとその余の被告らとの間に生じた分は、全部原告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告川崎金次郎、同吉岡征夫、同株式会社山電器は連帯して、原告草野守に対し、五八六万八、〇九〇円、原告草野長子に対し、五六五万九、九八〇円、および原告草野守に対する内金五六一万八、〇九〇円、原告草野長子に対する内金五四〇万九、九八〇円に対しては、昭和四五年七月二〇日から、原告両名に対する各内金二五万円に対しては本訴状送達の日の翌日(被告川崎については昭和四七年一一月一〇日、同吉岡については同年八月一九日、同株式会社山電器については同年八月一八日)から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告同和火災海上保険株式会社は、原告らに対し五〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四七年八月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁(但し公示送達の手続によつた被告川崎を除く)

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四五年七月一九日午前一〇時四〇分頃

2  場所 豊中市新千里南町三丁目二番地先交差点(以下本件交差点という)

3  加害車 甲普通貨物自動車(大阪四る八三二六)

乙自動二輪車(大阪あ四〇―四八)

右甲車運転者 被告 吉岡征夫

右乙車運転者 被告 川崎金次郎

4  被害者 亡草野豊和(乙車の同乗者以下亡豊和という)

5  態様 本件交差点を南から北に向つて進行中の甲車と、同交差点を東から西に向つて進行中の、亡豊和が同乗していた乙車とが衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告株式会社山電器(以下被告山電器という)は、加害車甲を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告山電器は、被告吉岡を雇用し、同人が被告山電器の業務の執行として加害車甲を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

(一) 被告吉岡は、加害車甲を運転して南から北へ進行し、信号機により交通整理の行なわれている本件交差点にさしかかつた際、前側方不注意・制限速度違反・徐行一時停止過怠等の過失により、本件事故を発生させた。

(二) 被告川崎は加害車甲を運転して、東から西へ進行し、右交差点にさしかかつた際、前側方不注視・徐行ないし、一時停止義務違反の過失により、本件事故を発生させた。

4  被告同和火災海上保険株式会社(以下被告同和火災という)は、乙車につき、原告草野守を保険契約者として、自賠法一一条に定める責任保険契約を締結していた。

三  損害

1  受傷・死亡

草野豊和は本件事故により急性硬膜外血腫・脳幹部挫傷の傷害を受け、本件事故の翌日である昭和四五年七月一九日死亡した。

2  治療関係費(原告両名が二分の一宛負担)

(一) 治療費 四八万三、四〇〇円

(二) 入院雑費 二万四、五三〇円

3  葬儀費用 三一万二、〇三〇円(原告両名が二分の一宛負担)

4  死亡による逸失利益

亡豊和は事故当時一八才で、一か月平均四万四、一三四円の収入を得ていたものであるところ、同人の就労可能年数は死亡時から四五年、生活費は月額一万五、〇〇〇円であつたから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると八一二万一、九〇六円となる。

算式(四四、一三四―一五、〇〇〇)×一二×二三・二三一=八、一二一、九〇六。原告らは、亡豊和の右債権を、同人の父、母として法定相続分に応じ、各二分の一宛承継取得した。

5  車両損害 二〇万八、一一〇円

原告守は、乙車の修理費として、右金員を負担した。

6  慰藉料 合計四〇〇万円

原告ら各二〇〇万円宛。

7  弁護士費用 五〇万円

原告らが各二五万円宛負担した。

以上、原告らの損害額は、原告守につき六九二万九、〇四三円、同長子につき六七二万〇、九三三円となるところ、本訴ではその内金(但し弁護士費用を含む)として、原告守につき五八六万八、〇九〇円、同長子につき五六五万九、九八〇円を請求する。

四  本訴請求

以上の次第で、被告山電器は自賠法三条(車両損害につき民法七一五条)にもとづき、被告吉岡・同川崎はいずれも民法七〇九条にもとづき、共同不法行為者(民法七一九条)として、各自原告らが本件事故により被つた右損害を支払う義務があり、また、被告同和火災は自賠法一六条一項にもとづき、政令で定める保険金額(五〇〇万円)の限度で原告らの被つた右損害を賠償する義務がある。

よつて、原告らは請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。弁護士費用を除く損害金に対する遅延損害金は、本件事故の翌日から、弁護士費用に対する遅延損害金は、本件訴状送達の日の翌日から起算した。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁(但し、公示送達の手続によつた被告川崎を除く)

一の1ないし5は認める。

二の1ないし3は争い、4は認める。

三は1の亡豊和の受傷・死亡の事実および3のうち、原告らの相続関係の事実を認め、その余は争う。

第四被告らの主張

(被告吉岡・同山電器)

一  免責

本件事故は、被告川崎の一方的過失によつて発生したものであり、被告吉岡には何ら過失がなかつた。かつ、甲車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告山電器には損害賠償責任がない。

すなわち、本件事故現場付近の交差点は、南北に通じる高架軌道によつて、東西に区分された二個の交差点から成つているのであるから、右高架の東側を南進してきて、東側交差点で右折した車両も、高架西側の交差点では、対向する東西の信号が青に変るまで一時停止すべきであり、そのための一時停止線も設けられている。しかも両交差点の間には高架の脚柱が存在し、東西方向を進行する車両はその陰になるため、同車両からの左右の見通しは悪い。しかるに、亡豊和を同乗させた被告川崎運転の乙車は、東側交差点右折後、一時停止を怠り、高架の脚柱にはさまれた見通しの悪い道路から、赤信号を無視して飛び出したため、折から青信号に従つて、高架西側の交差点に南方から進入した被告吉岡運転の甲車と衝突するに至つたものである。

以上のように、被告吉岡としては、見通しの悪い交差点から、しかも赤信号を無視して、自車進路前方に飛び出してくる車両のあることを予見して運転すべき注意義務はないものといわざるを得ず、同人には過失はない。

二  過失相殺

仮に免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については被告川崎にも前記のとおりの過失があるところ、後記のように、被告川崎の運行は、亡豊和との共通の目的のものであり、かつ、乙車は後記のとおり実質上、亡豊和の所有または保有に属するのであるから、被告川崎の右過失は被害者側の過失というべきであつて、原告らの損害賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。

三  損害の填補

本件事故による損害については、次のとおり損害の填補がなされている。

1 自賠責保険金から五一一万二、九九〇円。

2 被告山電器から葬儀費として三〇万円。

(被告同和火災)

四 他人性不存在

亡豊和は、乙車の保有者であり、その運行供用者であるから、自賠法三条にいう他人には該当しない。

すなわち、乙車は、所有名義は原告守となつていたものの、実質は亡豊和のレクリエーシヨン用として原告守が亡豊和に買い与え、もつぱら亡豊和が使用していたものであるから、亡豊和が乙車の保有者の地位にあつた。

そして、本件事故当日は、亡豊和が被告川崎とともに共通の目的である単車のスクラツプ部品を見るために京都まで行く途中であつたところ、自己がたまたま運転免許停止処分中であつたため、被告川崎に乙車を運転させていたものであつて、亡豊和は本件事故当時、乙車の共同運行供用者であつた。

五 混同

仮に原告守が乙車の保有者であるとすれば、同人に亡豊和に対し、自賠法三条に基づく運行供用者責任を負うべきところ、一方原告守は亡豊和の右損害賠償債権を相続により、承継取得しているから、両者は混同により消滅し、自賠責保険金請求の根拠となる損害賠償請求権は存在しない。

第五被告らの主張に対する原告らの答弁

一・二は争う。被告吉岡には以下のとおりの過失があつた。すなわち、本件交差点は新御堂筋線の高架によつて東西に区分されてはいるものの、なお全体として一個の交差点であることは明らかなのであるから、本件交差点西側の道路を北行してきた被告吉岡としては、交差点での右折車両のあることも予想し、十分減速する等して、右方の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然、制限速度を越える、時速六〇キロメートル以上の高速度で本件交差点右方の安全を全く確認しないまま進行した過失により、乙車の発見が遅れて、本件事故を発生させたものである。

三は認める。

四は争う。本件自動二輪車の保有者は原告守である。

すなわち、原告守は従前から勤務先への通勤用に使用していた五五CCの単車が古くなつたことと、勤務先から自宅まで内職の部品を運搬する必要があつたこと等の理由により、新たに自動二輪車を買入れる必要を生じ、自己が直接売買の交渉をし自ら代金を支払つて新たに乙車を購入し、同車を通勤用に使用していた。したがつて、同人の許諾のない以上、何人も乙車を使用することはできない状態にあつた。そして、乙車の自賠責保険契約も原告守が締結し、同車の諸経費も同人が負担していたものである。

また、亡豊和は、乙車の共同運行供用者ではない。

すなわち、本件事故当日は、単車の修理工をしていた被告川崎が京都に単車の部品を買い求めるために、乙車を運行していたのであつて、亡豊和は被告川崎に誘われて、これにたまたま便乗していたに過ぎず、亡豊和において乙車を運転するとか、補助をするということもなかつたし、予定もされていなかつたものである。

五は争う。混同によつて債権の消滅するのは、その債権を存続させておくことが経済的に無意味に帰することを根拠とするに過ぎないところ、本件では、原告守の損害賠償義務は自賠責保険の目的となつていて、独立の財産的価値としての存在を有しているものであり、混同によつて消滅する理由はない。

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし5の事実は、公示送達の手続によつた被告川崎を除くその余の当事者間では争がなく、そして被告川崎の関係では、〔証拠略〕により請求原因一の1ないし5の事実が認められる。

第二責任原因

一  運行供用者責任

〔証拠略〕によれば、請求原因二の1の事実が認められ、従つて被告山電器は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告らの損害(但し後記車両損害を除く)が存在する場合には、これを賠償する責任がある。

二  使用者責任

〔証拠略〕によれば、請求原因二の2の事実(但し過失の点については後述)が認められ、従つて被告山電器は、民法七一五条一項により、本件事故による原告らの損害(但し車両損害)が存在する場合には、これを賠償する責任がある。

三  一般不法行為責任

原告らと被告川崎を除くその余の被告らとの間では、いずれもその成立に争いがなく、被告川崎の関係ではいずれもその方式および趣旨により〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、新御堂筋線の高架道路(幅約三〇メートル)をはさんで、その両側に南北に走るアスフアルト舗装された新御堂筋線側道(東側の部分は南行、西側の部分は北行の、それぞれ一方通行となつており、車道幅員は、いずれも六・六ないし九・四メートル)と、東西に通じる車道幅員約六・二メートルの府道堺・布施豊中線(以下府道という)とが、ほぼ直角に交差し、信号機により交通整理の行なわれている通称上新田交差点(以下本件交差点という)内で、新御堂筋線側道の西側部分(以下北行車線という)と府道とが交差する道路上であること。

2  右新御堂筋線側道(以下単に側道という)は、北行車線およびその反対側の南行車線(新御堂筋線側道の東側部分)ともいずれも最高速度が時速五〇キロメートルに規制され、駐車禁止となつていたこと。また北行車線は、本件交差点南側の部分から、本件交差点に向つてゆるい下り勾配になつていること。

3  北行車線および南行車線から本件交差点に進入する車両の運転者にとつては、前記高架道路を支えるコンクリート製支柱の存在によつて右側の視野を妨げられるため、府道の右高架道路の下にあたる部分の交通状況を確認しにくい状況にあること。

4  府道から北行車線上に進入する入口付近の府道上には、一時停止の道路標示がなされていたこと。

5  被告吉岡は、甲車を運転して、北行車線を時速約六〇キロメートルで北進し、本件交差点の手前約八〇メートルの地点(下り坂の途中)で、対面信号が青であることを確認し、減速することなく、進行を続けたこと。

6  他方、被告川崎は、乙車を運転し、後部座席に、亡豊和を同乗させ、南行車線を本件交差点に向けて南進し、青信号にしたがつて本件交差点の府道と南行車線とが交差する部分を右折した後、府道を西に進んで北行車線の手前に至つたが、そのころ、対面する東西の信号は、赤を表示していたこと。

7  被告川崎は、北行車線の手前に、前記の一時停止の道路標示があり、かつ、乗用車が一台右停止線の手前で停止しているのを認めたのにかかわらず、同所で一時停止せず、北行車線の交通状況を十分に確認することなく、むしろ加速して、右停止乗用車の横を通りぬけ時速約三〇キロメートルで北行車線上に飛び出したこと。

8  被告吉岡は、前記のとおり対面信号が青であつたので時速約六〇キロメートルの速度のまま進行し、本件交差点を直進しようとしたのであるが、進路右前方にあたる見とおしの悪い高架の橋桁の間の東側道路に対する注視が十分でなかつたため、自車の進路右前方約二一・九メートルの地点に至つて初めて、被告川崎運転の乙車が、自車前方を横切る形で進行してくるのを発見し、急制動の措置をとつたが及ばず、甲車の左前部を乙車の左後部に衝突させ、被告川崎と、亡豊和とを約一五・六メートル前方にはね飛ばしたこと、そして右衝撃により亡豊和は、急性硬膜外血腫および脳幹部挫傷の傷害を受け、事故翌日死亡するに至つたこと。なお、被告川崎、亡豊和は、本件事故当時ヘルメツトを着用していなかつたこと。

以上の事実が認められ、〔証拠略〕は、前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、以上認定の事実によれば、被告吉岡は、北行車線を北進し、青信号に従つて本件交差点を通過しようとしたのであるが、同交差点は、その中央部を南北に新御堂筋線高架道路が走つているため、交差点の東側は南行車線と府道とが交差し、その西側は北行車線と府道とが交差しているという特殊な交差点であり、且つ、高架道路の支柱により進路右側方に対する見通しが悪い状況にあつたから、このような場合、自動車運転者としては、たとえ進路前方の信号が青を表示していたとしても、右方から西進してくる車両等のあることを予想し、制限速度以内で走行するは勿論、適宜減速したうえ、右前方に対する注視を厳にして進行すべき注意義務があるのにかかわらず、制限速度を約一〇キロメートル超過した時速約六〇キロメートルで進行し、しかも、進路右前方に対する注視が十分ではなかつた過失により、折から南行車線を南進し、本件交差点の東側を右折して、橋桁の間を西進してきた乙車を、進路前方約二一・九メートルの近距離に至つて初めて発見し、自車を右自動二輪車に衝突させたものと認められる。

また、前記認定の事実によれば、被告川崎は、亡豊和を同乗させ、乙車を運転して南行車線を南進し、青信号に従つて本件交差点に進入し、右折のうえ西進し、北行車線へ進出しようとしたのであるが、前記のとおり同交差点はその中央部を南北に新御堂筋線高架道路が走り、その支柱のため、北行車線上の見通しが悪い状況にあり、また同車線を通行する直進車の側からも、右折車両の存在を確認するのが困難な状況にあつたのであるから、このような場合右折車両の運転者としては、道路標示によつて定められた一時停止線の手前で一時停止して、進路左方からの直進車の有無や進行状況を十分に確認した後に発進すべき注意義務があるにもかかわらず、被告川崎はこれを怠り、漫然時速約三〇キロメートルで北行車線上に進出した過失により、乙車を、折から北行車線を北進してきた甲車に衝突させたものと認められる。

よつて、被告吉岡・同川崎は、いずれも民法七〇九条に基き、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

四  免責の抗弁

被告山電器の免責の抗弁は、右のとおり被告吉岡に過失が認められる以上、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

五  自賠法一六条による被害者請求

請求原因二の4(保険契約の存在)の事実は原告らと被告同和火災との間で争がない。

被告同和火災は亡豊和が乙車の運行供用者であつて自賠法三条にいう他人には該当しない旨主張するので、この点につき判断する。

〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  乙車の自動車登録上の名義人および自賠責保険の契約者は、原告守であること。

2  乙車は、原告守が、本件事故の約三ケ月前に、北山商会から息子の亡豊和のために買い与えたもので、亡豊和がこれを平素外出等に使用していたこと。

3  亡豊和は、かねて自動二輪車の運転免許を有していたが、本件事故の少し前に、軽四輪車の無免許運転をして、免許停止処分を受けていたため、本件事故当日まで、車はシートをかぶせたまま、同人宅に置かれていたこと。

4  亡豊和は、平素から単車が好きでよく乗りまわしていたが、本件事故当日は、同人が単車の修理等を依頼することから知り合いになつた前記北山商会の店員であつた被告川崎とともに、自宅に置いてあつた乙車に乗つて万博周辺道路をドライブした後、二人で京都方面に単車の部品を見に行く目的で走行中、本件事故に遭つたものであるが、当時亡豊和が運転免許停止の行政処分を受けていたため、たまたま同被告が亡豊和に代つて乙車を運転し、亡豊和が後部に同乗していたものであること。

以上の事実が認められ、右認定に反する、本件乙車は、原告守が、日常通勤用として使用し、亡豊和が使用することはなかつた旨の、原告守本人尋問の結果の一部は、前掲各証拠、ことに事故発生直後の同人の司法警察員に対する供述調書で、同車の日常の使用状況につき何ら作為的供述をはさむ理由がないと考えられる、〔証拠略〕に照らして、にわかに採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、以上認定の事実によれば、亡豊和は日常乙車を自己の意思に基づいて使用する権原を有していた保有者であり、かつ、前記認定のような本件事故当日の同車の運行の目的、方 等に照せば、本件事故当時も、被告川崎とともに、乙車について運行支配を有し、かつ、運行による利益を受け、乙車を自己のために運行の用に供していたものと認められる。

してみると、亡豊和は、自賠法三条にいう他人に該当しないことが明らかであるから、原告らの被告同和火災に対する、自賠法一六条に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第三損害

1  受傷・死亡

請求原因三の1の事実は、被告川崎を除くその余の当事者間では争がなく、〔証拠略〕により、右事実が認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費 四八万三、四〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告らは亡豊和の治療費として、訴外松本病院に対し、右金員を二分の一宛負担した事実が認められる。

(二)  入院雑費 二万四、五三〇円

〔証拠略〕によれば、原告らは亡豊和が入院した際、雑費として、右金員を二分の一宛負担した事実が認められる。

3  葬儀費用等 三一万二、〇三〇円

〔証拠略〕によれば、原告らは亡豊和の両親として同人の葬儀を行い、かつ、墓碑を購入するのに、少くとも右金員以上を要し、それを原告ら各二分の一宛負担したことが認められる。

4  死亡による逸失利益

〔証拠略〕によれば、亡豊和は事故当時一八才で、訴外豊中液化ガスに勤務し、一カ月平均四万四、一三九円の収入を得ていたことが認められるところ、同人の就労可能年数は死亡時から四五年、生活費は収入の五〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により、年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、六一五万二、〇九三円となる。

算式 四四、一三九×一二×〇・五×二三・二三〇=六、一五二、〇九三

原告らが亡豊和の父母として、同人の権利を相続した事実は、被告川崎を除くその余の当事者間では争がなく、被告川崎の関係では原告両名各本人尋問の結果により右事実が認められるので、原告らは、亡豊和の右債権を法定の相続分に応じ、各二分の一の三〇七万六、〇四六円宛承継取得したものと認められる。

5  車両損害

原告守は、本件事故により、乙車の修理費として、二〇万八、一一〇円の損害を被つた旨主張するが、右修理費用の額を認定するに足りる的確な証拠はない。もつとも、〔証拠略〕によれば、乙車の購入時の価格が二〇万八、一一〇円であることが認められるが、右金額をもつて修理費用額算定の基礎となすには、乙車が事故により修理不能の状態となり、あるいは修理費用額が右購入価額を上廻ることの立証を要するところ、原告守本人尋問の結果の一部には、本件自動二輪車が事故により修理不能の状態になつたことをうかがわせる部分もあるが、右結果も、〔証拠略〕に照らせば、にわかに採用し難く、他に、乙車が、事故により修理不能の状態となつたこと、あるいは修理費用額が購入時価額を上廻ることを認めるに足りる証拠はない。

6  慰藉料

本件事故の態様、亡豊和が乙車に同乗するに至つた経緯、亡豊和および原告らの年令、その他諸般の事情を考えあわせると、原告らの慰藉料額は、各二〇〇万円宛とするのが相当であると認められる。

よつて、原告らの以上の損害総額は、原告一人につき、五四八万六、〇二六円宛となる。

第四過失相殺

1  前記第二の三認定のとおり、本件事故の発生については、被告川崎にも、定められた一時停止義務を怠り、見通しの悪い交差点において、進路左方から青信号に従つて直進してくる車両の動向を十分確認することなく北行車線上に飛び出した重大な過失が認められるところ、前記第二の五認定の事実、特に本件事故当日の、乙車の運行の目的、被告川崎が乙車を運転するに至つた経緯等に照らせば、被告川崎の右過失は、また亡豊和の過失として評価するのが相当である。

そして、右事実に前記認定の、亡豊和がヘルメツトを着用せず、乙車の後部に乗車していた事実および被告吉岡の過失の態様等諸般の事情を考慮すれば、過失相殺として、被告吉岡・同山電器に対する関係で、原告らの損害の七割を減ずるのが相当である。

2  さらに前記第二の五認定の事実、特に本件事故は、乙車の本来の運行供用者である亡豊和が、自己が免許停止処分中であるために、一時的に被告川崎に同車の運行を委ね、みずからはその後部に同乗中発生したという事実からすれば、亡豊和は、みずから被告川崎に同車の運行を許容し、本件事故に結びついた前記のような運行状況を作り出した者として、信義則上、同車の運行によつて自己の身に生じた危険を、ある程度自己が負担すべきものというべきである。

よつて、右事実に、前記認定の、亡豊和がヘルメツトを着用せず、乙車に乗車していたという事実および被告川崎の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、被告川崎に対する関係においても、過失相殺に準じ原告らの損害の三割を減ずるのが相当である。

第五損害の填補

原告らが自賠責保険金五一一万二、九九〇円を受領したことおよび被告山電器から葬儀費として三〇万円の弁済を受けたことは被告川崎を除くその余の当事者間では争がなく、被告川崎の関係では原告らの自認するところである。

そして、〔証拠略〕によれば、原告らの右金員をいずれも二分の一宛各自の損害に充当したことが認められる。

よつて、原告らの前記第三の損害総額に、同第四の過失相殺をした後の残額から、右填補分合計五四一万二、九九〇円を差引くと、被告吉岡・同山電器の関係では右填補分によつて原告らの被つた損害は満たされたものと認められ、また被告川崎の関係では、原告一人につき一一三万三、七二二円宛となる。

算式(被告吉岡・同山電器)

五、四八六、〇二六×〇・三―五、四一二、九九〇×二分の一=〇以下

(被告川崎)

五、四八六、〇二六×〇・七―五、四一二、九九〇×二分の一=一、一三三、七二三

よつて、原告らの、被告吉岡・同山電器に対する請求はいずれも理由がない。

第六弁護士費用

本件事案の内容、難易度、審理経過、認容額等に照らすと、原告らが被告川崎に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告一人につき一五万円宛とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて、被告川崎は原告両名に対、各一二八万三、七二三円宛、およびうち弁護士費用を除く各一一三万三、七二三円宛に対する、本件不法行為の日の後である、昭和四五年七月二〇日から、また各一五万円宛に対する本訴状送達の日の翌日である昭和四七年一一月一〇日から、いずれも支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告らの被告川崎に対するその余の請求、および、その余の被告らに対する各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 二井矢敏朗 及川憲夫)

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